「プラスチックの女王」アクリル樹脂のサーキュラーエコノミー実現に挑む。

三菱ケミカル様 アクリル樹脂ケミカルリサイクルプロジェクト2022.06.16

  • 業界・業種:素材環境石油化学

  • プロセス:熱分解

開発の背景

ケミカルリサイクルによる、
循環型社会実現への挑戦。

現在、世界中でプラスチックのケミカルリサイクルに関する研究開発が進んでいます。コンビニの看板、水族館の水槽、百貨店のディスプレイなど至るところで利用されているアクリル樹脂も、その例外ではありません。

ケミカルリサイクルとは、廃プラスチックを化学的に分解し原料に戻してから、新品同様のプラスチックに再生成する方法です。実現が望まれている次世代の技術で、多くのメーカーがアクリル樹脂のリサイクルに取り組んできましたが、品質とコストをいずれも両立する方法は確立されていませんでした。

アクリル樹脂のトップシェアメーカーである三菱ケミカルは、循環型社会実現という社会的責任を果たすべく、研究開発に着手。しかし、思うような成果にたどり着けない状態でした。

マイクロ波活用の意味

外部からの間接的な加熱に頼らない、
高純度のモノマーへの分解を実現。

アクリル樹脂は400~500℃に加熱されると、MMAモノマー(=アクリル樹脂の原料)に分解される性質を持ちます。従来、多くの企業は分解釜にアクリル樹脂を入れ、直火を使って釜の外から間接的に加熱していました。お鍋やフライパンで炒め物をしているイメージです。この方法では、加熱源からCO2が排出されるほか、温度制御の難しさから不純物が発生、または焦げ付きにより工場の連続運転が難しくなるなど多くの問題を抱えていました。

それに対して、マイクロ波は従来のように分解釜を直火で加熱する必要はありません。代わりに釜内部のアクリル樹脂を直接加熱できるため、温度制御を適切に行えます。CO₂排出の削減はもちろん、焦げ付きの問題を回避でき、高純度のモノマーを得るプロセスが可能となりました。火を使わないので安全性が高く、分解釜のサイズも従来に比べて小型にできることがわかりました。

マイクロ波プロセスは、リサイクル樹脂の品質だけでなく、高効率と低コストを両立しうる技術だったのです。今後、マイクロ波プロセスから生まれたモノマーは、再びプラスチックの女王、アクリル樹脂へと蘇り美しい輝きを放つことになります。

開発ストーリー

工業化までのスピード感、
これもまたMWCCの提供価値。

ケミカルリサイクルについては、熾烈な開発競争が繰り広げられています。アクリル樹脂メーカーだけではなく、他種の樹脂メーカーとの競争も起きる状況となってきました。

そんな中、2019年マイクロ波化学のラボへ試験用のアクリル樹脂サンプルが届き、研究開発がスタートしました。実験の結果、アクリル樹脂の分子はマイクロ波によって振動し、直接加熱される性質があると分かりました。それはつまり、アクリル樹脂をマイクロ波によって直接加熱できるということが実証された瞬間でした。この結果を受け、2021年、三菱ケミカルとマイクロ波化学は、共同実証プラントの建設に向けて帆を進めることになります。当社のスケールアップ経験・技術を活かし、工業化に向けた検討は一気に加速しました。

三菱ケミカルの担当者からはマイクロ波化学の印象について、技術はもちろん、想像以上の「スピード」に驚いたと評価をいただいています。独自技術だけではなく、マイクロ波の専門家集団からなる開発チームと独自の開発インフラが確立していること。これらの融合によって、工業化への最短距離を走ることができたのだと当社は考えています。

アクリル樹脂分解実証プラント

社会的意義

ケミカルリサイクルの先駆者として
社会を牽引していく。

現在は、第一号工場稼働に向けた検討が着々と進んでいます。それは化学産業におけるサーキュラーエコノミーの実現という意義を持ち、その先の持続可能な社会への貢献につながっています。

世界中で開発競争が繰り広げられている中、廃プラスチックを新品同様に戻すケミカルリサイクルの事例は、社会全体を見ても希少なもの。本プロジェクトは、プラスチックリサイクルの実現例として新しい成功モデルになり得るでしょう。アクリル樹脂は「ケミカルリサイクル可能」という新しい付加価値を持った樹脂として、その用途が拓かれていくことが期待されます。

アクリル樹脂は自動車でも多く利用されています。三菱ケミカルは、Honda、北海道自動車処理協同組合と共に、テールランプなどの廃アクリル樹脂の水平リサイクル実証試験も進めています。分解に使われるのはマイクロ波です。アクリル樹脂のケミカルリサイクルへの道を切り拓くと共に、自動車産業全体でのカーボンニュートラルの実現に大きく寄与することとなりました。

このプロジェクトで得た技術やノウハウは、他の汎用樹脂にも応用が見込めるもの。今後も当社は、廃プラスチックのケミカルリサイクル技術について開発を進め、これからの社会を牽引していくビジネスを創出します。