エネルギー多消費である鉱山事業におけるカーボンニュートラルの実現に貢献する。

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構様 レアメタル省エネ製錬技術開発プロジェクト2022.06.16

  • 業界・業種:鉱山環境

  • プロセス:精製・抽出

開発の背景

カーボンニュートラル化が求められる鉱山事業に
マイクロ波による革新的なレアメタル製錬プロセスを導入。

2010年代後半以降、電気自動車(EV)の普及が世界的に加速。それに伴ってリチウムの需要が拡大したため、価格高騰につながりました。
リチウムの生産方法は塩湖の塩水から生産する方法と鉱石を採掘する方法の2種類に大きく分かれます。

鉱石中のリチウムは酸化リチウム(Li2O)の形で存在し、鉱石に含まれる酸化リチウムの品位(濃度)は約1%と非常に低いです。この低い品位の鉱石からリチウム分を取り出すには、通常1000℃以上への加熱を必要とするため、高エネルギー消費や 大量のCO2 排出が問題となっています。
これら2つの課題を同時に解決すべく、国立研究法人量子科学技術研究開発機構(以下QST)は、レアメタルの省エネ製錬技術の研究を開始したのです。

QSTが最初の研究ターゲットに定めたのは、核融合炉のエネルギー源となるベリリウムでした。
従来のプロセスでは2000℃の高温熱処理が必要だったところ、マイクロ波と化学処理を複合する新しい視点での研究を行い、250℃での処理が可能であることを見出しました。

しかし、この研究はあくまでも数グラムスケールでの成果だったのです。トンスケールでの製錬を実現し実用化につなげていくには、マイクロ波技術のスケールアップを行う必要がありました。

マイクロ波活用の意味

これまでの精錬プロセスを根底から変える
Game-changingプロセスを生み出した。

QSTが開発したレアメタルの省エネ製錬技術は画期的なものでした。マイクロ波によって加熱エネルギーの使用量を従来法より約8割減らすだけでなく、CO2の排出を抑える技術です。
このマイクロ波技術をスケールアップするには、高い専門性が求められ、具体的には対象の鉱物のマイクロ波吸収能力測定と解析を行い、反応器の中のマイクロ波分布を適切に設計する必要があります。

QSTはマイクロ波のスケールアップ技術を保有し商業用反応器を開発したマイクロ波化学に声をかけました。これを機に、QSTとマイクロ波化学の実用化に向けた共同開発がスタートしました。

開発ストーリー

国の基盤技術をつくるとともに、
社会を動かす技術をつくる。

ベリリウム製錬は国の基盤技術という位置づけで動きはじめました。一方、このプロジェクトで得られた技術を社会に実装し、省エネ、CO2排出削減、経済活動の活性化につなげていくことも重要なテーマでした。

そこで、様々なレアメタルの製錬や化合物の溶解処理技術を開発し展開していく計画が動き出しました。
2021年、マイクロ波化学とQSTは、様々なレアメタルの省エネ製錬技術の社会実装に向けて共同研究契約を締結。2028年のプラント商用化を目指し、研究を進めています。

プラントの設備投資や運転コストは、従来技術と比べると70〜80%削減でき、また再生可能エネルギーを使用することで、CO2排出量を95%以上減らせると予測しています。

実証試験で使用している装置

社会的意義

世界中の鉱山から排出される
CO2の削減を目指して。

商用化プラントの最初のターゲットはリチウムです。リチウムのニーズが高い自動車メーカーやITメーカーはサプライチェーン全体でのカーボンニュートラルを目指しています。

近い将来、カーボンニュートラルの環境下で生まれたリチウムの価値はさらに上がるとも言われています。我々の開発成果が、脱炭素社会を支えていくのです。その先には、鉄鉱石などの鉱物を対象としたプラントの展開を予定。世界中の資源メジャー、鉱山会社への提案・導入を見据えています。

CO2排出量が最も多い産業と言われる鉄鋼業に対して技術導入ができれば、地球規模でのカーボンニュートラル実現に、大きなインパクトを与えることができるでしょう。
『ビジネスで環境問題を解決する』。創業時に代表の吉野が抱いた想いは、この先、大きなスケールで形になっていくのかもしれません。