宇宙でも地産地消。月や火星で地中の氷から水をつくる。

JAXA様 凍結乾燥による宇宙空間での水資源調達プロジェクト2020.12.01

  • 業界・業種:素材医薬品食品

  • プロセス:乾燥・濃縮・脱水

開発の背景

宇宙探査の機運が高まる中、
水の現地調達が課題。

2017年、トランプ(元)大統領が、月への有人探査を米航空宇宙局(NASA)に指示する文書に署名しました。日本政府もこれを受けて、宇宙基本計画の工程表を改訂し、米国の計画に参加する方針を決定。ロシアや中国、インドも着々と準備を進めるなど、宇宙探査とりわけ月面探査の機運が世界的に広まっています。

有人の宇宙探査においては、スタッフの飲料水、生活用水などが必要。しかし、水を宇宙空間に打ち上げるには1リットルあたり1億円という費用がかかってしまいます。そこで、宇宙探査を継続するためには、活動に必要となる水を現地調達することが求められます。つまり、人類が宇宙で活動するためには、現地で水を手に入れるという、地産地消の技術を確立することが課題となるのです。

3D rendering. Astronaut walking on the moon. CG Animation. Elements of this image furnished by NASA

マイクロ波活用の意味

マイクロ波の技術を活用すれば、
惑星の土壌から水を得ることが可能に。

課題解決の方法として考えられるのは、宇宙探査において、惑星の土壌に含まれる水氷から水を得ること。そうすれば、飲料水・生活用水に利用できるだけでなく、水素と酸素に分けてロケットを飛ばす燃料に使用することもできます。

本プロジェクトでは、マイクロ波がもつ「特定の場所を選択的に加熱できる」特性を活かして、月や火星の土壌に存在する水氷にマイクロ波を直接照射することで効率的に水が回収できることを実証しました。この方法が確立すれば、大幅なコストダウンが実現し、宇宙で水を手に入れることが現実のものとなります

開発ストーリー

さまざまな領域の専門家が
推定に推定を重ね、大きな成果へ。

プロジェクトが本格的に動き出したのは、2016年12月。マイクロ波化学は、東京工業大学と共同で宇宙探査イノベーションハブに応募し、JAXAから正式に採択されて共同でプロジェクトが進められることになりました。

マイクロ波プロセスは数十年間「大型化が不可能」と言われ続けてきた技術。そのためネガティブな印象を持たれることも多かったのですが、JAXAでは既に小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」のイオンエンジンにマイクロ波の技術を応用していたことから、スムーズに開発を進めることができました。

このプロジェクトのベースになった技術に、凍結させた食品を真空にすることで水分を昇華し乾燥する「凍結乾燥」があります。狙った場所にマイクロ波をピンポイントで照射することにより、氷を効率よく昇華させて水として回収できるのが特長です。この技術を活用して、マイクロ波反応装置内でどのようにマイクロ波が動くのかシミュレーションし、その結果を反応器の設計に反映させ、「凍結乾燥」システムを最適化。この作業は、電磁場解析を専門とするチームが担当しました。

設計を進める中で、反応器内に投入するマイクロ波のエネルギーがある一定量を超えると、サンプルである月の模擬砂の温度数が上がり過ぎ、昇華する水分量が多くなり、真空ポンプにダメージを与えることがわかりました。そこで反応器内の温度変化を観察しつつ、マイクロ波のエネルギー投入量や反応器内の真空度を調整することによって、適切な乾燥を行うことができるように改良しました。

2017年10月。JAXAをはじめとした関係者が集まり、マイクロ波凍結乾燥装置の中に入れた砂から水を取り出すデモンストレーションと報告会が行われ、約11ヶ月にわたる私たちの研究開発は、高い評価を得ることになりました。

2017年に製作した「Planet One」
第一実証棟での報告会の様子

社会的意義

月や火星での長期滞在だけでなく、
宇宙開発そのものに大きな役割を。

本プロジェクトを通じて、JAXAの担当者からは、「まだ未検証の部分はあるものの、月面深部の水氷昇華にはマイクロ波によるリモート加熱が有益であるという意見を補強する、興味深い結果になりました」というコメントをいただきました。

宇宙空間で太陽光を用いてマイクロ波凍結乾燥装置を稼働することで、宇宙での様々な活動や生命の維持に不可欠な水の現地回収が当たり前になる。それは、宇宙空間での長期滞在に貢献するだけでなく、宇宙の成立ちの探索や宇宙空間の利用のための開発など、人類の将来の発展に向けた活動を行うという宇宙開発そのものにも大きな役割を果たすでしょう。