2022.11.01PRESS RELEASE

国内初、マイクロ波を用いたケミカルリサイクル技術の大型汎用実証設備が完成 ―廃プラスチックの再資源化で、サーキュラーエコノミーの実現に貢献―

マイクロ波化学株式会社
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)

NEDOが進める「戦略的省エネルギー技術革新プログラム/実用化開発フェーズ」において、マイクロ波化学(株)は、「マイクロ波プロセスを応用したプラスチックの新規ケミカルリサイクル法の開発」に取り組んでおり、プラスチックにエネルギーを直接伝達できるマイクロ波技術によって、従来の熱分解プロセスに対して約50%の省エネ効果の実現を目指す技術を開発しています。

今般、国内初となる1日あたり1tの処理能力を持つマイクロ波を用いた汎用(はんよう)実証設備が完成しました。同社は、2021年に1時間あたり5kg程度の処理能力を持つ小型実証設備を完成させましたが、新たに「高温複素誘電率測定装置」の開発などを行うことにより、大規模かつ汎用的な実証設備を完成させました。

2022年度内に本実証設備を本格稼働し、汎用樹脂を中心に実証試験を実施する予定です。今後は年間1万tへとさらにスケールアップし、2025年までに化学メーカーなどと共同で社会実装を目指します。マイクロ波化学(株)は、本事業を通じてブラッシュアップしたマイクロ波プラスチック分解技術「PlaWave®」を確立し、2030年の国内の省エネ効果量として3.9万kl(原油換算)を目指すとともに、サーキュラーエコノミーの実現に貢献します。

図1 今回完成した実証設備


1.概要
廃棄プラスチック問題の解決や脱炭素社会の構築に向けて、資源循環を通じたサーキュラーエコノミーが求められています。この実現には、分解により廃棄プラスチックを基礎化学原料に戻して新たな製品を作るケミカルリサイクル技術が有力な手段と考えられています。しかし、既存の技術では化石燃料などを用いた外部加熱のプロセスを用いるため、エネルギー消費や二酸化炭素(CO2)排出、コスト、安全性に課題があるとされてきました。

そこでマイクロ波化学株式会社は、対象物質を直接的かつ選択的に加熱でき、エネルギー効率が高いとされるマイクロ波※1を用いたプロセス開発を多方面で展開しています。マイクロ波プロセスは電子レンジと同じ原理で加熱する化学プロセスで、カーボンニュートラルにとって必要不可欠な「産業電化※2」を実現するための重要な技術です。加えて、再生可能エネルギー由来の電気でマイクロ波を発生させ、廃棄プラスチックを分解することで、実質CO2フリーで再資源化できることから、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミー実現を同時に追求できます。

このような背景の下、マイクロ波化学(株)は2020年度から、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「戦略的省エネルギー技術革新プログラム※3/実用化開発フェーズ」(以下、本事業)で「マイクロ波プロセスを応用したプラスチックの新規ケミカルリサイクル法の開発」に取り組んでいます。プラスチックにエネルギーを直接伝達できるマイクロ波技術によって従来の熱分解プロセスに対して約50%の省エネ効果を実現し、2030年の国内の省エネ効果量として3.9万kl(原油換算)を目指します。

2021年9月には、マイクロ波プロセスを用いた汎用プラスチック分解技術の開発を目的とする小型実証設備(1時間あたり5kg程度の処理能力)を完成させました※4

そして今般、マイクロ波化学(株)は本事業で設備の大規模化やさらなる汎用化に取り組み、国内初となる1日あたり1tの処理能力を持つケミカルリサイクルの汎用実証設備を完成させました(図1)。

2.今回の成果
(1)高温複素誘電率測定装置の開発
電子レンジでは水分子がよく吸収する周波数のマイクロ波が照射されますが、本プロセスでは廃プラスチックやそれに混ぜる材料(フィラー)が効率よく吸収する周波数を選んで照射する必要があります。そのため、対象となるプラスチックの種類を増やし、設備をより汎用的にするには、対象物質のマイクロ波の吸収能力を示す「複素誘電率」をそれぞれ精密に測定することが求められます。

マイクロ波化学(株)は、独自の高温複素誘電率測定法を保有していますが、ラインナップを増やすため、CO2レーザーを使い多様な種類のプラスチックに応用可能な高温複素誘電率測定装置を今回新たに開発しました。熱源に波長10.6マイクロメートル(以下μm、μは100万分の1)のCO2レーザーを使用することで、測定に必要な量である数gのプラスチックサンプルを最高1000℃程度まで加熱しながら、同時に複素誘電率を精密に測定することに成功しました(図2)。本装置は、プラスチックサンプルだけでなく、加熱時に触媒として用いる無機フィラー用サンプルや液状サンプルも測定することが可能であり、応用範囲が非常に広い特徴があります。

図2 今回開発した高温複素誘電率測定装置の外観

(2)設備の大規模化とプラスチック分解実証
マイクロ波化学(株)は本事業において、2021年に開発した小型実証機を大規模化し、1日あたり1tの処理能力を有する大型実証機を完成させました。さらに、その設備を用いた実証試験を開始しました。本実証では廃棄プラスチックを原料(モノマー)として回収することを目標としており、ポリプロピレンやポリスチレンなどをモデルターゲットとして設定し検証を進めています。ポリスチレンの分解ではスチレンモノマーを主成分として回収し、回収したスチレンモノマーを精製、再重合することで再度プラスチックに戻せることを確認しました(図3)。

図3 小型実証機を用いてケミカルリサイクルした再生ポリスチレン
(左:分解オイル/中:回収スチレンモノマー/右:再生ポリスチレン)


3.今後の予定
マイクロ波化学(株)は本事業を通じてブラッシュアップした、マイクロ波によるプラスチック分解技術「PlaWave®※5」を確立し、本技術をグローバルスタンダードにすべく開発を進めます。これにより、2050年カーボンニュートラルへの道筋を示し、産業分野における温室効果ガスの排出量削減に貢献します※6。
具体的には、2022年度内には本事業において本実証設備を本格稼働し、国内で初めて、マイクロ波を利用したポリスチレンのモノマー化などの実証試験を実施する予定です。
また本事業終了後は、2025年までの社会実装を目指してさらなるスケールアップのための実証実験を進めます。

図4 PlaWave®のロゴマーク


【注釈】
※1 マイクロ波
マイクロ波は、電場と磁場の変化を伝搬する波である電磁波の一種です。周波数300MHzから300GHz(波長にすると1mから1mm)の電磁波がマイクロ波と呼ばれています。

※2 産業電化
従来の化石資源を用いたプロセスを、電気エネルギーを用いたプロセスに置き換えていくことです。カーボンニュートラルは電化社会とされているものの、現状、産業部門においてはほとんど電化が進んでいません。

※3 戦略的省エネルギー技術革新プログラム
事業概要:https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100039.html
2022年度予算:71.6億円(次プログラム「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム」採択分を含む。)
事業期間:2012年度~2024年度

※4 小型実証設備(1時間あたり5kg程度の処理能力)を完成させました
(参考)マイクロ波化学(株)リリース(2021年9月27日)「汎用プラスチックを対象としたケミカルリサイクルの実証設備を完成 ~サーキュラーエコノミーの実現に向けて~」
https://mwcc.jp/news/786/

※5 PlaWave®
マイクロ波化学(株)が構築するマイクロ波による独自のプラスチック分解技術プラットフォームです。熱分解だけでなく加溶媒分解にも適用可能であり、反応高速化や省エネ化、設備コンパクト化を実現します。

※6 産業分野における温室効果ガスの排出量削減に貢献します
(参考)マイクロ波化学(株)リリース(2021年11月18日)「三井化学株式会社とマイクロ波を用いた廃プラスチックのダイレクト・モノマー化の取り組み開始について」
https://mwcc.jp/news/868/
(参考)マイクロ波化学(株)リリース(2022年5月31日)「マイクロ波を用いた軟質ポリウレタンフォームのケミカルリサイクル」
https://mwcc.jp/news/1087/
(参考)マイクロ波化学(株)リリース(2022年6月28日)「使用済みプラスチックから基礎化学原料を直接製造するマイクロ波による新たなケミカルリサイクル技術の共同開発を開始」
https://mwcc.jp/news/1463/
(参考)マイクロ波化学(株)リリース(2022年8月24日)『「マイクロ波加熱技術を適用した小型分散型ケミカルリサイクルシステム構築の開発・実証」事業が大阪府の「令和4年度 カーボンニュートラル技術開発・実証事業費補助金」に採択』
https://mwcc.jp/news/1607/


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